第1章「ロイヤルウェディング」 2話
担当:榎本かほり
「騎士たちと一緒に姫様を護衛!?」
サギラン魔法学校の学長室でイグナーツは叫ぶ。
ルーシフ国王の婚姻式が開かれる一週間前、学長に呼び出された数名の生徒は、式当日の段取りについて説明を受けていた。
「そうだ。当日、諸君には王立騎士団と合同で警備そして護衛にあたってもらう。我が国王陛下の妃となるヴィリーゼ・シュタインベルグ・ヴェンツェーヌ様は御年17歳。護衛は年の近い魔法学生のほうが適任だろうと、騎士団長によるご配慮だ」
学長は静かに語る。
王立騎士団――王国に貢献することがこの世の最たる名誉であるこの国では、その身を捧げ、剣を振るう騎士団が最高職とされていいた。国民であれば誰もが彼らを敬慕(けいぼ)し讃美した。男なら一度は憧れる役職だった。
そんな彼らを間近で見れるという、学長の口から告げられたそれは騎士団入りを夢見る魔法学生らにとって思ってもみない朗報だった。
王立騎士を養成するサギラン魔法学校では、度々こうして生徒を数名選抜しては騎士団に送っていた。厳しい選考を勝ち上がり、そのなかの一人として選ばれることは魔法学生の栄達(えいたつ)を意味する一種の『ジンクス』としてとても有名だったのだ。
選ばれたことに対する興奮を隠せない学生たちをよそに、学長は淡々と必要事項を述べた。
「近頃、魔王軍が勢力を伸ばしているという噂も聞く。当日の式は厳戒態勢の中で行われるが、万が一の場合は諸君も騎士団の力になってほしい」
「はい!」
魔法学生達は姿勢を正し意欲を示した。彼らの瞳は希望と期待で一段と輝いていた。
「諸君を統括するはリベラトーレ・N・ギッティ卿、王立騎士団の中でも一二を争う実力者だ。当日は彼の命令に従い、式典の円滑な運営に寄与してほしい。くれぐれもサー・リベラトーレに粗相のないように……」
何とも言えない高揚感に襲われたイグナーツは、最早学長の話など聞く耳を持たない様子だった。今すぐにでもここを飛び出して、ついにこの日が来た、と大声で叫ぶのを抑えることで精一杯だった。
「……とはいえ諸君等は未だ学生の身。一種の社会勉強だと思って、当日は気負わず、彼らの補助に徹してほしい。諸君らの健闘を期待する」
そう告げられ学長室を出たイグナーツ達は、扉を閉めると同時に感嘆の声をあげた。抱き合い、その喜びを表現する者もいた。
「やったなイグナーツ。数いる魔法学生から俺たちが護衛に抜擢されたんだぞ。しかも期待されているときた。これは叙任式も近いんじゃないか?」
イグナーツと同じく学長に呼ばれていたジャンは、親しげに彼に話しかけた。退屈な講義を受け、きつい鍛錬に耐え、魔術と剣術を磨き上げてきたのは、全て騎士となり魔王をこの手で討つため。今までの努力が漸く身を結ばれたのだと思うと、居ても立っても居られないのは彼も同じようだった。
「いや、まだまだだ。結婚式当日、何かしら爪痕を残して騎士団の目に止まらねえと意味がない。手柄、手柄を……」
しかし喜ぶジャンをよそに彼は内なる情熱を口にする。
意欲に燃える彼は、自身の勇姿を讃える活劇を妄想していた。それは魔王の手先から姫を救い出すという、見事な英雄譚だった。